亜夜子退出のアクシデントにょり、達也が真夜の息子であるという思いがけな

亜夜子退出のアクシデントにょり、達也が真夜の息子であるという思いがけない宣言に対す る「それは真実なのか」「真実だとして、何故今まで隠していたのか」という当然の追及は、 はつきりと口にされぬまま有耶無耶に終わつた。それはつまり有耶無耶の内に、真夜の息子で あり深雪の婚約者であるという達也の地位が確立したということでもあつた。
しかしだからといつて、今まで「出来損ない」と蔑んでいた相手をいきなり「現当主の息子」「次期当主の婚約者」と敬うことは難しい。幾ら表面を取り繕っても、言葉と行動の端々 に達也を軽んじる態度が滲み出る。
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しかし達也にそれを咎める意思は、全く無かった。今は一種の宴会の席でもあるし、何より 彼は当事者として、この茶番の裏側を良く知っていた。だからいきなり態度を変えなければな らない分家と使用人に対し、むしろ同情を覚えていた。
しかし、使用人に相応しくないその態度を看過できぬ者もいた。
「達也様、深雪様、この度はおめでとうございます」
モーニングコートを着た葉山が真夜の前で、ィコール、二人の前で平伏する。
「ありがとうございます」
深雪は淑やかに返礼しただけだったが、「ありがとうございます。ですが、顔を上げてください」達也にはその大袈裟な作法が居心地悪いようだった。
「自分は本家の仕事やしきたりをまるで知りません。葉山さんには色々と教えていただきたい と思っているのです」
あくまでその場限りのものではあるが、達也は殊勝な口上でこの場を切り上げようとした。
「光栄にございます。ご不明なことは、この老骨に何なりとお訊ねください」
しかし葉山はこのお芝居を、まだ終わらせるつもりはないようだった。
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「そういえば達也様、覚えておいででしょうか？」
台本も打ち合わせもないのだから、いきなりこう訊かれても心当たりがあるはずはない。
しかし、達也が記憶の掘り起こしに苦労する必要は無かった。
「この虧春会の席で、新しい魔法をご披露いただけるお約束だったと記憶しております」
葉山がすぐに、答えを告げてくれたからだ。
「新しい魔法？達也、それは完成しているの？」
真夜がお芝居とは思えない目付きで食い付いてきた。——お芝居ではなく、本気で好奇心を 滾らせているのだから、それも当然だった。
「——はい」
いつもの調子で「ええ、まあ」と答えようとして、達也は危ういところで態度を取り繕うこ とに成功した。自分がこの調子だから、使用人を咎める気になれないのは当然である。
「本当!? 是非見せて頂戴！」
真夜が当主の威厳もなく、少女のようにはしやいだ。
達也が抗議の意志を込めて、葉山をジロリと見た。
しかし葉山は、孫でも見るような笑みで真夜の,若,々,し,い,姿,を,見,守,っ,て,い,た,。
「お兄様——達也さん。わたしも、拝見したいです」
この騷ぎに、何故か深雪までもが便乗してきた。
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完璧な包囲網だ。
「分かりました。支度がありますので、少し席を外します」
最早、達也に断るという選択肢は無かった。
達也は羽織袴姿のまま、CADのヶースを持って会場に面した庭に現れた。
彼の向かい側に、猪が入れられた檻が置かれる。
達也が会場の座敷に向かって大声で説明を始めた。
「新魔法『バリオン•ランス』は生物を対象とした致死性の魔法です。その為、デモンストレーションはいささか血生臭いものになつてしまいます。無用な殺傷をお好みでない方は、しば らく別室にてお寛ぎになるのがよろしいかと存じます」
その警告に顔を見合わせる者は何人もいたが、席を立つ者は一人もいなかった。ここにいる のは全員、四葉の関係者である、ということだろう。
「それでは、始めます」
何故こんな見世物小屋じみた真似をしなければならないのだろう、と思いながら、達也はこ の魔法の為に改造したシルバーホーン•カスタム「トライデント」をヶースから取り出した。
いつもはニ丁拳銃スタイルで使うトライデントを右手に 一丁だけ持ち、更にその先端に、銃 劍のような物を取り付ける。その銃剣のような物はかなり長く、トライデントは全体の見た目が少々アンバランスな印象になつていた。
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達也が檻の中の猪に、銃剣の先端を向ける。
彼はそのまま無造作に引き金を引いた。
魔法のプロセスが一斉に、一瞬で走る。
【マテリアル•バリオン分解】
———銃剣部分の原子核が分解される。原子核を分解する為に、分子が原子に、原子が電子と 原子核に分解され、原子核が陽子と中性子、バリオンに切り離される。
【FAEプロセス実行•粒子収束】
———FAE理論のとおりに物理法則の束縛が低下した粒子群が、自然法則に従い拡散する代 わりに薄く円盤状に密集する。分解の定義対象になつていないレプトン•電子が陽子に捕獲さ れる。
【FAEプロセス実行•射出】
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——薄い円盤形に密集したバリオンが、標的に向かって撃ち出される。FAE理論に従い、 魔法力の限界を超ぇたスピードで移動するバリオンの塊は秒速一万キロに達する。
【マテリアル•再成】
——全てのプロセスが逆転する。
「えつ？」
「何だ？」
「何が起こつた？」
そんな声が観客から湧き上がったのは、猪が地響きを立てて倒れた直後だった。
達也にはもちろん、詳しく解説しょうなどというサービス精神は存在しない。
彼は観客となっている本家と分家と使用人に一礼し、CADと銃剣型のアタッチメント (実はこれも一種のCAD)をヶースに戻そうとした。
「待ってください」
しかしあいにく、彼を引き留める声があった。
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「何でしようか」
達也を引き留めたのは、勝成だった。
勝成が下駄を履いて庭に降りる。そして猪の檻に近づき、死体をじっくり見詰めた。
「今のは、高密度の中性子線ですね。体組織が沸騰している。何故か細胞は放射化していない ようですが、一体どうすればこんな現象が起こるんですか？」
「どうすれば、は秘密です」
まさか勝成は魔法のノウハウを訊いたわけではないだろうが、念の為牽制球を投げておく。
「それは当然だ」
案の定、勝成は腹を立てたのか、声が尖っている。
「ではどんな現象が起こつたのか説明しましよう。それほど難しいことではありません」
それに構わず達也は、銃剣のようなアタッチメントをトライデントにはめたまま勝成に見せ た。
「これは単一の起動式を格納したCADと炭素鋼の杭を組み合わせた一種の武装デバイスです」
そう言われてみれば、確かにそのアタッチメントは「剣」と言うより「杭」と言った方が相 応しい形状をしていた。
「この杭の部分をバリオンのレベルに分解して、薄い円盤状に密集させ撃ち出したんですよ」
擊ち出すプロセスにはアンジェリーナ.シリウスの武器「プリオネイク」に使用されていたFAE理論———フリー •アフター•エグゼキュション理論を利用しているが今この場でそこまで種明かしするつもりは、達也には無かった。
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「その先端部分が形を失ったょうに見えたのは、私の錯覚ではなかったんですね」
勝成が一旦、納得を示し、すぐに自問自答を始めた。
「その武装デバィスを陽子と中性子に？電子は……ああ、そうか。電子捕獲で陽子が中性子 に。だから荷電粒子線ではなく、中性子線になったのか。……では何故、その先端部分は丸々 残っているんですか？」
勝成が何故こんなにしつこいのか達也は心の中で首を捻りながら、この程度までならと考え てその質問に答えた。
「『再成』しました」
「つ! なるほど、そうか！」
「なるほど、そうでしたか!」
勝成の口惜しそうな声に重なって、真夜の満足げな声が庭に響いた。
「だからこその『パリオン•ランス』。『キヤノン』でも『ランチヤー』でも『ガン』でもなく『ランス』と名付けたのは、最終段階で再成魔法を組み込んでいるからなのですね」
達也にしてみれば、ここまで種明かしすれば分かって当然という気分だったが、正解である ことには間違いないので、彼は真夜に向かって殊勝に一礼した。
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「放射化された物質が残っていないのも、『再成』にょって射出した中性子を全て回収してい るからですね？中性子線にょって、物質内の水分が高温に熱せられるという結果だけが残る 対物攻撃。達也、見事です！」
達也がもう一度、頭を下げる。
上体を起こした達也へ、勝成が他の人間に聞こえない声で囁いた。
「その魔法を使えば、私たちを一蹴することができたのではありませんか？」
勝成がさつきからしつこい理由が、これで分かつた。
だがこの問いは、完全な的外れだつた。
達也はそれを、容赦無く指摘した。
「『バリオン•ランス』は『分解』が効かない相手を退ける為に作り上げた魔法です。『分解』 が通用する相手に使う機会はありません」
勝成が顔を赤くして黙り込んだ。「分解を使っていれば、すぐに片がついた」という言外の メッセージを彼は正確に理解した。
勝成が鋭い視線を達也に向ける。だが彼はここで暴れて、自分ばかりか新発田家、そして琴 鳴まで危険に曝す愚か者ではなかった。勝成は息を整え、無念を心の奥に押し込めて、新魔法 に感心している表情を取り繪い、席に戻っていった。

Kết quả (Việt) 2:

一丁だけ持ち,更にその先端に,銃 てその質問に答えた. 「「再成」しました」「つ! に感心している表情を取り繪い,席に戻っていった.