明日の総北には、困難が待ち構えている。 真波は、それを感じ取った。 いつもと違う、ピリ...... とした空気。 取り繕っているようだけれど、巻島を取り囲む空気が違う。 原因は何だろうと思って、見てみれば、田所の様子がおかしいことに気付いた。 いつだって、豪快で快活な彼の纏う空気が、苦しい。 どこか違う。 巻島がそれを気遣っているようで。「...... 具合が悪いんだ」 田所の体調が崩れているのだと、真波は、気付いた。 隠しているけれど、真波には解る。 彼は、明日、走れるのだろうか。 考えて、真波は、眉を寄せた。 巻島は、田所のような大きな体格のものが、カラーゼッケンを背負って走ることによって、他のチームにプレッシャーを与えられると言った。 けれど、それが崩れたら? それはむしろ、自分達、総北のチームが崩れることに繋がるのではないだろうか。 真波は、巻島と鳴子と田所と、全員を連れて、先頭に合流しろと金城に言われた。 坂の多い明日のステージで、真波に与えられた役目。 けれど、駄目だと、真波は直感した。 今のままでは、それは果たせない。 ...... 田所を切り捨てる......? それもダメだ。 それも必要な判断となる可能性もあるけれど、ダメだ。 そんなことでは、あの王者には届かない。 3日目まで、全員が揃っていなければ、駄目なんだと思う。 自転車レースにとって、数はそれだけで武器なのだから。「真波、どうしたっショ?」 考え込んでいると、巻島が、何をしているのかと、首を傾げながら近づいてきた。 その表情は特に、何か隠しているようには、もう、見えない。 きっと、何かの覚悟を、巻島が決めてしまったように見える。 でも、それじゃ駄目だ。 駄目だし、嫌だ。 巻島だって、本当は絶対にそんなことは望んでいない筈なのだから。「巻島さん」「何ショ?」「............ 田所さん、どのくらい、具合が悪いんですか?」 どうしようかと迷い、けれど、ここで躊躇しても始まらないと、真波はずばりと聞いた。「?!」 巻島が驚愕に目を見張る。 何故、それを知っていると。「自慢じゃないけど、俺、具合の悪い人、小さい頃から見慣れてるんで」 自分も具合が悪かったから、病院に連れて行かれて散々見たしと、真波は肩を竦める。「ホントに自慢にならないッショ。 ...... 心配する必要は......」「あるんですね」 誤魔化さないでくださいと、真波は、じぃと巻島を見つめた。 その視線を巻島が睨み返し...... だが、負ける。 巻島の方が、分が悪い。 真波は真実を嗅ぎ分け、それを追及してきているのだから。「こっち来るっショ」 こんな所で話していたら、誰に聞かれるか解らないと、巻島は手招いた。 他の者達には知らせないつもりなんだと、真波は眉を寄せつつも、素直に従う。「で、どんな様子なんですか?」「見なかったふりをするつもりは、無いようだな」 はあ... と、巻島がため息を吐く。「気付いた問題を見ないふりしたら、それが大きくなるだけですよね」 見ないうちに、勝手に解決してくれるような問題点ではない。「......... 田所っちの、体調は、最悪ッショ。 食事は全部もどしちまって、点滴受けた。 ...... 明日、走れるか、解らねぇッショ」 これは退かないなと、巻島は諦め、正直に教えた。 田所には悪いと思うが、こう言う真波が退くことは無いと、短い付き合いながらも、解っている。「...... リタイアするってことですか?」 そこまでどうしようもないのかと、真波は眉を顰める。「違う。 田所っちのことだから、ギリギリまで頑張る筈ショ。 ...... でも、俺等について来られるかは、解らねぇ」 巻島は、乱暴に髪を掻き乱し、呻くように言った。「スタート地点にはつくってことですね」 真波は確認するように言う。 それならば、方法はあった。 自分にまかされたオーダーを遂行する方法はある。「そりゃ着くっショ...... 真波、何やるつもりだ」 後輩の口調に気づき、巻島が眉を寄せた。「俺が、田所さんをひっぱりあげます」 スタート地点につきさえすれば、あとは、真波が引いて、連れていく。 最初は、どうやったって、スピードが出ないかもしれないが、田所の意志があれば、ゆっくりでも回復させられる。 無茶苦茶な方法かもしれないが、総北が6人揃うには、それしかないと思う。「無理ショ」「やります」 きっぱりと言い切った巻島に、すっぱりと言い切る。「あのな」「やるんです」 そうしなきゃならない。 総北は、誰一人欠けることなく、3日目を迎えなきゃいけないのだと、真波は言い切った。 それだけでなく、真波が、、そうしたいのだ。「...... 俺と鳴子にはどうしろって、言うんショ」 この頑固者と、巻島は溜息を吐く。 この後輩がやると言ったら、一歩も退かない。 普段ふわふわしている癖に、誰よりも勘が良くて、貪欲で、頑固だ。「先に行ってください。 金城さんと今泉くんにも、助けが必要だと思うので」 どうやっても、最初は、箱学からおいて行かれることになる。 下手をすれば、京都伏見も上がっていくだろう。 その状況で、待たされる先頭の2人は、神経が磨り減る筈だ。 金城はそれでも大丈夫と思うけれど、今泉の方は、ちょっと心配になる。 御堂筋に変なこだわりがあるから、余計に。「お前な、...... 総北はバラバラになるッショ」「でも、また集まれば良いんです」 それじゃ駄目ですかと、真波は言った。「そりゃ夢ドリームッショ」「出来ないと思うんですか?」 肩を竦めた、巻島に、首を傾げて尋ねる。「............ できねぇよ、普通はな」 そんなことは、夢物語だ。 けれど。「絶対に、来いッショ」 それに賭けたいと言う気持ちも、偽ることは出来なかった。 総北に入学してからずっと共に戦ってきた田所が落ちる所は、見たくない。 その願いが、真波に見透かされたようだ。「はい」 へにゃりと笑って、頷いた真波に、巻島は苦笑して、頭をかき混ぜてやった。
đang được dịch, vui lòng đợi..
