「義理立て、というのはなあんだい?」<br>「...... そもそもあれは関東管領家の刀で関東管領の名跡と共に長尾景虎に授けられたものだが、当初は一文字の刀としてではなく《長船兼光》の刀と言われていた。 それゆえ同家ではあれを《長船の刀》と見る向きもあったのだ」<br>「それで《義理立て》か...... ははあなるほどなるほど。 ここへ足を運ぶということはすなわち長船兼光としての自らを否定することになる」<br>「バカバカしい! てめえが一体何者かなんてことは自分が一番良く知ってることじゃねえか。 周りになんと言われようと一文字の刀ならここへ来て挨拶の一つもするのが礼儀ってもんだろ!」<br> すると助宗は長篠一文字をじっと見つめて言った。<br>「...... それはお前に想像力が欠落しているからよ」<br>「はあ? なんだと?」<br>「お前達は《一》の銘を刻まれている故そのようなことが言えるのだ。 それを持たぬ者達は自らの存在の所以を人の見識に頼るより他ない。 その心細さ、不安...... お前たちの理解が及ぶものではない」<br> 助宗は眉間にシワを寄せ、厳しい表情で2名を睨み付けた。<br>「...... 言葉には重々気をつけることだ。 御方もまた《証》を持たれぬ身...... お前たちのような者らが先のような事を言えば快くは思わぬ。 せいぜい想像力を働かせることだ」<br> 低い声はいつしか静まり返っていた大広間中に響き渡った。<br> 大広間の刀たちが助宗に頭を垂れるうねりが漣のように続いた。 それを避けながら助宗は大広間のいつもの座に腰を下ろした。<br> 最上段の上座の脇が彼のいつもの定位置である。 延房と並び一文字の祖・則宗に最も近しい存在――それが助宗という刀だった。 後鳥羽院の御番鍛冶にも選ばれた刀工の作である。<br>「けっ...... 助宗め。 御前の取り巻きぶりやがって偉そうに。 自分だって銘は刻まれてるじゃねえか!」<br> それ故の忠告か――道誉一文字は遠巻きに彼を見つめながら考えていた。<br> おそらく此度の急な召集は《彼》――山鳥毛という刀の顔見せには違いない。<br> しかし、それにしては少々規模が大きすぎる。<br> ただ顔見せと紹介というだけなら次の正月の参賀の折にでも機会を設けたはずだ。<br> しかしそれをせず、敢えてこうしてわざわざ招集まで掛けて場を設けるからには何か特別な意図があるに違いないと道誉一文字は思った。 ...
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